約 3,520,818 件
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/210.html
栄誉の金色リボン アンピリアン・ブラン 著 春の早朝、木立に漂う朝霧に青白い陽光が揺らめいていた。テンプラーとストリングプールは開けた草地へと向かっていた。この4年間、2人はお気に入りの森はおろか、ハイ・ロックにさえも帰ってはいなかった。多少は変わったかもしれないが、森はその姿をほとんど変えてはいなかった。ストリングプールは、今は端正なブロンドの口ひげを蓄えており、それを蝋で固めて尖らせていた。テンプラーのほうは、太古の森に冒険を求めてやってきた青年にしてはまったく異質な生き物のようであった。傷付けられてなどいないのに、まるで傷を受けているかのように非常に寡黙であった。 二人はつる草や枝を掻き分け、自分たちの矢と矢筒に細心の注意を払いながら前へと突き進んでいた。 「この道は、お前の家へと続くんじゃないか?」とストリングプールは尋ねた。 テンプラーは周りに生い茂る草木を一瞥し、うなずき、歩きつづけた。 「やっぱりな」とストリングプールはそう言って笑い、「覚えてるよ。お前が鼻血を出すたびに、よくこのへんを駆け下りてたからな。いや、別にお前を怒らせるつもりじゃないが、そんなお前が兵隊になっただなんて信じられないな」 「家族は元気か?」と、テンプラーが聞いた。 「相変わらずさ。まあ、変わってるとすればまたちょびっと思い上がってるだろうな。俺が学校から戻ってくるのを心待ちにしてるのは確かだ。だが、俺にとってはここにはなんの用もない。少なくとも自分の分の遺産を相続するまではね。お前は俺がアーチェリーで栄誉の金色リボンをもらったのを知ってるか?」 「知らないわけないだろう」と、テンプラーは答えた。 「それがだ、俺の家族が大広間にこれ見よがしに飾ってるんだ。恐らく見晴らし窓からも覗けると思うぜ。くだらないことをすると思うが、ここらの小作人にとっちゃ、いたく感動ものらしい」 目の前に開けた草地が現れた。下草にはもやがかかっており、透明色でひんやりとした霧に包まれていた。そこから数メートル離れたところに黄麻布でできた半円の的が置いてあった。それは番人のように見えた。 「そういやここで練習したよな」テンプラーは的をまじまじと見つめて言った。 「少しだけな。俺は2、3日前に戻ってきたんだ」と、ストリングプールは笑顔で言った。「俺の両親から聞いたが、お前は1週間前に戻って来てたんだってな?」 「ああ。僕の隊がここから数マイル先で野営してたんだ。それで懐かしくなってな。あまりに変わってしまって、右も左もわからなかったよ」と言って、テンプラーは眼下に何マイルにも広がる、人家もまばらな広大な谷間を見下ろした。「種まきにはよさそうだな」 「お前がこの地を去った時、俺の家族も方々に散らばったよ。俺はお前の古びた家を残したいと思って、ちょいと揉めたがな。だが、それもちょっと感傷的だな。特にあの土地の土壌はよく肥えてたからな」 ストリングプールは自分の弓に注意深く弦を張った。それは黒檀に銀線細工の施されたウェイレスト製の手作りの品で、芸術品とも言えるものであった。彼はテンプラーが自分の弓に弦を張るのを見て、哀れみを感じてしまった。彼の弓は布切れでまとめられた、風化してしまったような代物であったからだ。 「もし、それがお前が教わった弦の張り方なんだったら、お前の隊はアカデミーからアドバイザーに来てもらったほうがいいな」とストリングプールはできるかぎり穏やかな口調で話した。「緩ませた輪は、『O』の中に『X』の形ができるようにしなきゃ。お前のを見てると『Y』の中に『Z』の形になってるだろ」 「俺はこれでうまくいくんだ」と、テンプラーは答えた。「それと言っておくが、僕は今日の午後まではいられない。夕方には隊に戻ろうと思っている」 ストリングプールは次第にこの古い友人にいらつきを覚え始めた。家族の土地を奪われたことを恨んでるのなら、なぜ自分にそう言わないのか? 一体なぜ谷へと戻ってきたのか? 彼はテンプラーが矢をつがえるのを見ながら狙いを定めた時、咳をした。 「いや、すまない。これは俺の誠意からそうさせるのだが、お前は隊へ戻る前にちょっとばかり智恵をつけたほうがいい。弓の引き方には3種類あってだな、3本指をかけるものと、親指と人差し指をかけるものと、親指と2本の指をかけるものとがある。いいか、これは俺のお気に入りのお親指でひくもので……」ストリングプールはテンプラーに自分の弦にひっかけてある小さな革製の輪っかを見せ、「お前もこういうものを持たないと親指が引きちぎれちまうぞ」 「僕には僕の愚かな方法が一番合うんだ」 「意地をはるのはよせよ。俺はなにもしないで栄誉の金色リボンをもらったわけじゃないんだぜ。盾の裏から、立って、座って、しゃがんで、ひざまづいて、はたまた馬の上からも弓を放ってみせたんだ。こんなに役立つ情報を教えるなんて、俺がお前との友情を完全に忘れちまってないからだぞ。キナレスちゃんよ、俺とお前はこんなチビっこの時からの仲じゃないか。ありがたくアドバイスを受けろよ」 テンプラーはストリングプールをじっと見つめ、弓を下ろした。「じゃあ見せてくれ」 ストリングプールはリラックスし、高まった緊張をほぐした。おもむろに矢を眉毛、口ひげ、胸、耳たぶのところまで引いた。 「弓を射るやり方には3種類ある。ボズマーのように弦を掴んで離すまで一連の動きでやる方法、カジートのように短く引いて、射る前に少し止める方法と、一旦途中まで引いて、止めて、それから最後まで引いて射る方法」と言ってストリングプールは的の中央に正確に矢を放った。「これが俺の好きなやり方だ」 「いいね」と、テンプラーは言った。 「今度はお前の番だ」ストリングプールは言った。彼はテンプラーに正しい握り方や矢のつがえ方の手ほどきをし、的を狙わせた。午後の間、戦争の影が刻まれたテンプラーの顔に子供のような表情が浮かんだのをストリングプールは初めて見た。テンプラーが矢を放つと、その矢は的を大きく越えて、谷間へと消えていった。 「悪くないね」テンプラーは言った。 「そうだね、悪くはないね」とストリングプールは言いながら、再び友情をかみしめていた。「お前も練習すれば、もう少しは的を狙えるようになるよ」 別れるまでに2人はもう2、3本練習用の石弓を射った。テンプラーは隊の野営地のある東の方へ長い道のりを歩き始め、ストリングプールは谷底にある家族の住む大邸宅へと帰っていった。彼は旧友を助けたことに気をよくし、広い芝生を抜け、正門まで学校で習った歌を口ずさみながら歩いていった。大きな見晴らし窓が割れていることに彼はまったく気づかなかった。 しかし、彼は大広間に入ってすぐに、テンプラーが的から大きく外して放った矢が栄誉の金色リボンに突き刺さっているのに気づいた。 小説・物語 茶4
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/23.html
ウェイステン・コリデイルの 空中庭園 [この書物はもともとドワーフ語で書かれ、エルフ語に翻訳されたもののようだ。エルフ語は断片的にしか判読できないが、エルフ語を研究する者が他のドワーフ語書物を訳出するには事足りるかも知れない。] ……導き手アルトマー・エストリアルは炎足をもって、四角形の庭が死して横たわる街の中心へと先導した…… ……は礎や鎖や船にその名の由来を尋ねた…… ……大地の骨からの脱出を何故固化した音を利用して数えようとしなかったのか、あるいは凍結した炎を糧としなかったのか…… ……私がかつて書いたのことになった語、我らが下賎なる近縁がその無知ゆえに「芸術」と呼ぶあれを…… ……だが言葉も経験も、我らが祖先たちの移ろいやすい戒律に反する奇妙にして恐ろしき法の粋を浄化することはない。 [翻訳部分の最後には、別の書き手によると思われるドワーフ語の注釈があり、それは以下のように訳すことができる。] 「燃えさかる裁断球を置くがいい、ヌプスルド。おまえのエルフ語は語句は正しけれど、正しく誤読することはできない」 民族・風習・言語 紫1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/61.html
九大神の騎士 ソリチュードのカロライン 著 九大神の騎士の存在は今ではほとんど忘れられているが、当時、その名はシロディール中に── というよりも、帝都中に知れ渡っていた。セプティム帝都では初期のある短い期間、全ての人々が彼らの冒険談に夢中になった。しかし、彼らの名声は、他の多くの有名人の噂話とともにレッド・ダイヤモンド戦争の混乱の中で人々に忘れられ、今では彼らの修道院がどこにあったのかすら誰にもわからない。 九大神の騎士は、第三紀111年、アイル戦争で英雄的な活躍を見せたアミエル・ラナス卿によって結成された。その目的は、何千年ものあいだ失われていた、伝説の聖戦士ペリナル・ホワイトストレークの武器や防具などの聖遺物を探し出し、取り戻すことであった。彼らは第三時代初期の自信と野望に満ちた風潮の申し子であった。タムリエルが統一され、人々が何世紀ぶりかの平和を謳歌していたあの時代、不可能なことなど何一つなかったのである。 アミエル卿が騎士たちを率いてエリングレンのワイアームを倒し、第一紀から行方不明だった聖戦士の胴鎧を持ち帰ると、結成まもない九大神の騎士の名声は一挙に広まった。すぐに、その当時の偉大な騎士たちが九大神の騎士に加わろうとやってくるようになり、シロディールのウェストウィルドにあった九大神修道院は高潔で善良な者を磁石のように引きつける場所となった。九大神の騎士は国中の賞賛の的であった。コロヴィアの名門貴族の御曹司ベリック・ヴリンドレル卿が加わる頃には、九大神の騎士は帝都で最も栄光ある騎士団になっていた。その後比較的短い期間に九大神の騎士はさらに3つの聖遺物を発見し、その度に彼らの名声はより高くなっていった。誰もが、最終的に彼らが8つの聖遺物全てを取り戻すだろうと信じて疑わなかった。 しかし悲しいことに、彼らの当初の信念は第三紀121年に始まったレッド・ダイヤモンド戦争による帝都の分断と荒廃の中で途切れてしまった。当初、アミエル卿は騎士たちを戦争に参加させないつもりであったが、彼らの名声がそれを許さなかった。多くの騎士たちが帝都の名門家庭の出身であり、どの家もこの血なまぐさい市民戦争でどちらかの側について戦っていたのである。ベリック卿が最初の離脱者であった。彼はセフォラスの側について戦うため、聖遺物である剣とグリーヴを身に付けて戦場に向かった。他の多くの騎士たちもまた、その後まもなく九大神の騎士を離れ、敵味方となって戦った。 九大神の騎士の最後は、その初期の栄光に比べてひどく不名誉なものとなった。第三紀127年、セフォラスの勝利で戦争が終結すると、ベリック・ヴリンドレルは勝軍の功労者として重要な位置につくこととなった。第三紀131年に帝都が発令した九大神の騎士の解散布告の背景には、ベリック卿の圧力があったと見られている。この布告はほとんど形式だけのものであったが、アミエル卿の尽力にもかかわらず九大神の騎士が再結成されることはなかった。 九大神の騎士によって取り戻された聖遺物はどうなったのだろうか? 聖戦士の剣とグリーヴはベリック卿が持ち去ったが、それらが今どこにあるのかはわかっていない。聖戦士の篭手は、コロールのステンダール聖堂の床に安置されている。第三紀139年、カシミール卿が不名誉な死を迎えた際そこに残したまま動かされていないのである。聖戦士の胴鎧の所在は不明である。アミエル卿は第三紀150年に九大神修道院に一人で住んでいたところを通りがかりの旅人に目撃されているが、それ以降の彼の運命と胴鎧の行方は歴史の謎となってしまった。このようにして、九大神の騎士は歴史の彼方へ消え去ってしまったのである。 ダンジョン 九大神の騎士関連 歴史・伝記 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/47.html
デ・レルム・ディレニス ヴァリアン・ディレニ 著 私は611歳である。自分自身の子を持ったことはないが、歴史があり、華々しく、時には悪名高いディレニ一族の物語や伝統とともに育ったたくさんの甥や姪や親族がいる。タムリエルの一族には、様々な運命のなかで強大な権力を行使したような有名な人物は多くない。我々の戦士や国王は伝説の題材となり、彼らについて多くを語る伝説の中で、その名誉や功績が存続している。 私自身は剣を取ったり、重要な法律を取り決めたりしたことはない。しかし私もまた、ディレニの伝統の中ではあまり知られていない側面であるが、いまだ重要な位置を占める役割を担っている。それはウィザードである。私自身の伝記はきっと後世には興味を持たれないだろう。私の甥や姪や親族たちには混沌とした第二紀のタムリエルの物語をせがまれるが。しかし、語らねばならない祖先の話がいくつかある。より有名な親族が行ってきたことと同じくらい劇的に彼らは歴史を変えたのかもしれないのだが、彼らの名前がいまや忘れ去られようとしている。 最も近いところでは、ダガーフォールの国王であるライサンダスが、宮廷妖術師メドラ・ディレニのおかげで、昔ながらの敵対国センチネルの征服に成功した。彼女の祖先ヨヴロン・ディレニは、ダンマーのタムリエル女王カタリアに仕える帝都の魔闘士で、女王が混乱を収め平和な時代を築くのを助けた。彼の曾祖父ペラディル・ディレニは初代の支配者の下で同様の役割を担い、今日あるような専門的な組織がない中、ギルド法令の制定に尽力した。時代をさらに遡ると、その祖先の魔女レイヴン・ディレニは彼女のいとこであるアイデンとライエインとともにその名を知られている。レイヴンは後期アレッシア帝都の暴政に終止符を打つ役割の一端を担った。彼女はアルタウムのサイジック以前に、付呪術、つまり魂を宝石に封じ込める方法や、それを使って兵器に魔法をかける学問を考案したとされている。 しかし、私が今から語ろうとするのはさらに昔、レイヴンよりはるか昔の祖先の物語である。 アスリエル・ディレニは我々一族の慎ましやかな初期を思い起こさせる存在で、カウマスの河岸にあったタイリゲルの村で小さな農園をやっていた。その地がディレンといい、後の我が一族のファミリーネームとなった。当時のサムーセット島のほかの人々と同様、彼はただの農園主であった。しかし、他の家族が自分たち家族が食べる分だけを賄うのに対し、ディレニス一族は遠戚が集まって共に働いていた。彼らは集団で仕事をしたほうが小麦や、果樹園、蔓、家畜、養蜂場などには効率がよいと考え、毎年、個人で畑を耕しているところがそれまでに記録した最大の収穫量と同じくらいの収穫を得ていた。 アスリエルは、どのような農耕にも向かない、特に土壌のひどい農地を持っていたが、いくつかの小さな薬草は、この石だらけで痩せた酸性の土でもよく育った。必要に迫られてだったが、彼は薬草の活用方法については熟練者と言えるまでになった。もちろん薬草の多くは料理の香り付けに使われるのだが、この地上のどのような植物もマジカの潜在力なしに育たないのは自明のことである。 それほど昔であっても、すでに魔女は存在していた。アスリエル・ディレニこそが錬金術を発明したなどというとばかげていると思われるかも知れない。彼が成し遂げたこと、その業績には私たち一族も大いに感謝しているが、それは彼が錬金術を芸術や科学へ組み立てあげたということである。 タイリゲルには魔女の集団はいなかった。もちろん、魔術師ギルドができる何千年も前の話だ。そこで人々は治療を求めてアスリエルのところへ訪れた。彼は黒い苔とルーブラッシュを組み合わせた、あらゆる毒に対応可能な薬の正確な製法や、柳の雄しべを細かく刻み、チョークウィードと混ぜ合わせて病気を治療したりする方法を独学で編み出した。 当時のタイリゲルには、病気やうっかり毒を飲んでしまった、というのを除けば大した驚異はなかった。確かに荒野には、トロールやチャイマーなどの時々害を及ぼす妖精族やウィル・オ・ウィスプもいたが、どんなに若くて知恵のないアルトマーでさえ、それらを避ける方法は知っていた。しかし、まれにアスリエルが降伏を余儀なくされてしまう脅威が訪れることもあった。 私が真実と信じている彼にまつわる物語の1つに、彼がどのようにして原因不明の病から姪を救ったかという話がある。彼の懸命なる介護にもかかわらず、彼女は日を追って衰弱していった。最終的に彼が苦味のある飲み物を飲ませたところ、翌朝には彼女のベッドの周りは灰だらけになっていた。どうやら彼女には吸血鬼がとりついていたようであった。アスリエルの薬は、彼女自身にはまったく害を及ぼさずに彼女の血液を毒に変えるものだった。 この製法が歴史の霧の中で失われなかったとしたら! このことは彼をささやかではあるがすばらしい人物として、サムーセット島初期の記録に残されるに十分な功績であった。一方そのころ、ロックヴァーと呼ばれる野蛮な軍隊がディレン川を進行しており、タイリゲルを格好の標的と判断した。この当時、ディレンの人々は戦士どころかただの農作民にすぎず、助けも得られず、ロックヴァーが彼らの収穫物を奪い、襲撃に次ぐ襲撃を重ねるのから逃げ、見ていることしかできなかった。 しかし、そのころアスリエルは吸血鬼の残していった灰を使って試行錯誤の研究を重ねていた。そして、いとこにある提案を持ちかけた。次にロックヴァーがディレンに現れたら、健康で丈夫なものは彼の研究室へ来るようにという知らせが回った。ロックヴァーがタイリゲルの村に到着すると、農場はひっそりとして、いつものように皆逃げてしまっていたように見えた。しかし、農作物を盗み出そうとすると、自分たちが何か見えない力によって攻撃されているのが分かった。この村は何かにとりつかれていると思い、ロックヴァーは一目散に逃げていった。 ロックヴァーは恐れをなしながらも強欲に勝てず、その後も何度か村を襲おうとしたが、いつも何か恐ろしいものに襲われ、攻撃されるのであった。野蛮な性格ではあったが愚かではなかったロックヴァーは、この敗北の原因究明に努めるようになった。農場が呪われているわけではないのは、作物がよく育ち、豊作で、動物たちに恐れが見られないことからも明らかであった。ロックヴァーはこの農園に偵察を送り込んでその秘密を探ろうとした。 偵察係はロックヴァーの元へと戻り、ディレニの農園には血の通った人間たち、アルトマーが暮らしていると報告をした。彼はロックヴァーの軍隊が河を下っていく時に見張りを続け、年寄りや子供が丘へと逃げる一方で、健康で丈夫そうな農作民とその妻たちはアスリエルの研究所へ行くのを見た。偵察係は彼らが研究室に入り、その後は誰も出て来ないことに気づいた。 いつも通りロックヴァーは目に見えぬものたちにこてんぱんにやられたが、偵察係は研究室で起こったことを報告した。 次の晩、2人のロックヴァーがアスリエルの農場へこっそりと近づき、他のディレンの人たちに気づかれないようにアスリエルを誘拐した。ロックヴァーの族長は、ディレンの人々がこの錬金術師なしでは姿を消せないことが分かっていたので、すぐにでも農園を襲撃しようと考えた。しかし彼は復讐心に燃え、自分がこんなただの農作民に屈辱を受けてしまったのだと思い至った。その時、彼の心にあるずる賢い計画が浮かんだ。もし、ディレンがいつも見ている野蛮な軍隊が見えないとしたら? 誰にも逃げ延びるチャンスのない大量虐殺が目に浮かぶ。 偵察係は族長に、アスリエルが吸血鬼の灰を使って、農作民の姿を見えなくしていると報告をした。しかし、吸血鬼の灰以外の材料は分からない。偵察係はアスリエルが灰と一緒に混ぜ合わせていた光り輝く粉について説明した。アスリエルは当然ロックヴァーの手伝いをすることを拒んだが、彼らは略奪同様、拷問の名人だった。アスリエルはしゃべるか死ぬかだと悟った。 何時間にも渡る拷問のあと、とうとう彼は材料を教えることに同意した。彼自身、そのものの名前は知らなかったが、「輝く灰」と呼んでいた。それは殺されたウィル・オ・ウィスプの残骸であった。彼は襲撃するにあたって軍隊全体の姿を見えなくするにはその材料が大量に必要だと教えた。 ロックヴァーは吸血鬼だけではなく、ウィル・オ・ウィスプも見つけて殺し灰にしなければならないことに文句を言ったが、それでも数日の間に錬金術師が求めた材料すべてをそろえた。族長は愚か者ではなかったので、まず最初にアスリエルに薬を試させた。彼の言ったとおりに、彼の姿が見えなくなってしまった。これでこの薬が本当に効くことが証明された。族長はその薬をもっと大量に作らせた。この時、アスリエルが黒い苔とルーブラッシュをかんでいたことには誰も気づかなかった。 ロックヴァーたちは薬を渡されるとすぐに飲んだが、たちまち、とはいっても苦しむ暇はあったが、全員死んでしまった。 アスリエルが姿が消える薬を調合しているところを盗み見ていた偵察係は、明らかに研究室のロウソクの灯の光のせいで2つ目の材料が何か光るものだと見間違えていた。消える薬にはそのような材料が調合されることはない。2つ目の材料はただの紅花草で、タムリエルで育つもっとも一般的な薬草であった。ロックヴァーが拷問をしながら光り輝く粉の正体をしきりに問い詰めて来たとき、アスリエルは前に一度、「輝く灰」と吸血鬼の灰とを混ぜ合わせて強力な毒薬を作ったことを思い出した。彼らの宿営地から紅花草を盗み出し、吸血鬼の灰と「輝く灰」に混ぜ、姿の消える毒薬を作るのは簡単だった。彼は自分で解毒し、ロックヴァーには毒薬のみを渡した。 ロックヴァーは死んでしまい、二度とディレニの農園を襲うこともなく、その後そのほかの敵も現れなかった。彼らディレニはその後ますます繁栄していった。幾世代も過ぎ、彼らはサムーセット島を去り、タムリエル本土へと移り住み、その歴史的な活躍を始めた。アスリエル・ディレニは錬金術師としての堂々たる業績から、アルタウムへ招かれサイジックとなった。現在のわれわれが知る錬金術のうち、どれほど多くのものが彼によって発明されたものであるか定かではないが、今日に伝わる科学と錬金術は彼なしでは存在しえなかったであろうことは疑う余地もない。 しかし、それも遠い過去のことである。アスリエルの起こした革新は、私のささやかな実績や、歴史に残るディレニの偉業と同様、未来の驚異につながる布石にすぎない。私がその未来の出来事を目撃できればよいのだが、私にできるのは過去の出来事をディレニの子供たちやタムリエルの子供たちと共有することであり、私は残りの人生をそうやって過ごしたいと考えている。 茶3 随筆・ルポルタージュ
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/44.html
我々は狐の指であり、影の子たちである。そして巷では盗賊ギルドとして知られている。 グレイ・フォックスの従徒に科せられる戒律は三つのみである。 一つ、ギルドの他の構成員から盗むことなかれ。 二つ、仕事に際しては何ぴとも殺めることなかれ。我々は闇の一党とは違う。動物や妖魔であれば必要に応じて殺傷してもかまわない。 三つ、貧しき者たちから盗むことなかれ。平民および物乞いたちは、特に帝都の波止場地区においては、グレイ・フォックス自身の庇護の下にある。 以上三つの戒律のどれを破っても、盗賊ギルドからの追放が待っている。殺人を犯した場合、再びギルドに加わるには血の代償を支払わなければならない。血の代償は殺めた人一人毎に支払う必要がある。支払先はギルドのドイエンであれば誰でもかまわない。 ドイエンたちはギルド長の手であり、目でもある。構成員はドイエンから命令を受け、ドイエンを通じて恩恵に与る。ドイエンは帝都の判事たちに和解金を支払い、構成員の罪を帳消しにしてくれる。無論、これには若干の上納金が伴う。 ギルド長はグレイ・フォックスである。彼に関する公の場での話題は禁止する。ただし、人々のほとんどが彼を伝説に過ぎないと思い込むよう取り計らうものとする。 我々は盗賊であり、決して石工や書記官ではない。各人が自らの判断で盗みを行う。ギルドは強盗の手助けも邪魔もすることはない。ただし、盗んだ物品はギルドの盗品商しか買い取ってくれないことが判明するだろう。他の商人は盗品を受け付けてはくれない。 盗賊ギルド内での昇格に値するには、盗品商たちに十分な価値の盗品を売ることが条件となる。ギルド内での地位が高くなるにつれ、より多くの盗品を売る必要が生じる。 何らかの形でグレイ・フォックスに助力をするよう命じられた場合、最良の情報源が物乞いであることを忘れるなかれ。彼らの目および耳はいたるところにある。ただし、若干の出費は覚悟せよ。只では何一つ話してはくれない。少なくとも真実は。 ギルドは構成員の面倒を見るものとする。ドイエンたちはいずれの構成員にかけられた賞金をも取り消すことができる。ただし、これには衛兵に賄賂を支払うための資金が必要となるため、構成員はドイエンに罰金額の総額の半分を支払わなければならない。 盗賊ギルド関連 社会 赤3
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/103.html
ペリナルの歌 第5巻:モールリアスへの愛情 [編者注:1巻から6巻に収められた文章は、帝都図書館所蔵のいわゆるレマン文書から採られたものである。この文書は、第二紀初期に無名の研究者によって集められたもので、古代文書の断章の写しからなる。古代文書のそもそもの出所は不明であり、いくつかの断章は同時期に書かれた(同じ文書からの断章という可能性もある)ものと考えられている。しかし、6つの断章の成立時期に関する学術的な合意は得られておらず、ここでもその断定は避ける。] モールリアスがカイネの息子であることは厳然たる事実である。しかし、ペリナルがシェザリンであるかどうかについては語らないほうがいいだろう(あるとき、ダガー使いのプロンチヌがそれを言って、その夜蛾を喉につまらせて死んだ)。しかし、モールリアスとペリナルが互いを家族と呼び合ったことはよく知られている。モールリアスが弟分であり、ペリナルは彼を甥と呼んでかわいがった。しかし、これらは単に神々に近い不死身の彼らの気まぐれな遊びだったのかもしれない。ペリナルは、戦いに関してはモールリアスに助言などしなかった。この半牛人は素晴らしい戦いぶりを見せていたし、兵をうまく導き、憤怒に身を任せることもなかったからだ。しかしペリナルは、モールリアスがペリフに対して募らせていた愛にだけは警告を与えた。「モール、俺たちはアダだ。愛によって何かを変えなくてはならない。さらなる怪物をこの地上に生み落とさないように気をつけろ。お前が思いとどまらなければ、彼女はお前を愛するようになり、お前のせいでシロドはその姿を変えてしまうぞ」これを聞いたモールリアスは彼の雄牛のような姿を恥じ、彼がパラヴァニアにとって醜すぎるのではないかといつも思い悩んでいた。ペリフが彼の服を脱ぐのを手伝ってくれるときなどは特にそうだった。ある夜、彼は小月神の月の光に鼻輪を光らせ、鼻を鳴らして言った。「彼女はまるでこの鼻輪の光のようだ。ときどき気まぐれに光り輝くが、夜にこうして頭を動かせばいつでもそこに見ることができる。そして、俺は決して手に入れられないものを知るのだ」 歴史・伝記 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/154.html
妖精族 第3巻 ウォーヒン・ジャース 著 「ついに、タウーバッドは羽ペンの力を知るところとなった」と言って偉大な賢者は物語を再開した。「クラヴィカス・ヴァイルの従僕であるデイドラの妖精族の魂が封じられた羽ペンは、オリエル神殿の週間公報の書記としての彼に大きな富と名声をもたらした。しかし、彼はその羽ペン自体が芸術家であって、自分は単なる魔法の傍観者の1人に過ぎないということに気付いてしまった。彼は激しい怒りと嫉妬に駆られた。泣きながらその羽ペンを真っ二つに折ってしまった」 タウーバッドはグラスのはちみつ酒を飲み干し、それから視線を戻すと、なんと羽ペンは全くの無傷であった。 彼はそれ以外に羽ペンを1本も持っていなかったので、インク壷に自分の指を浸し、雑な字でゴルゴスへメモを書いた。先日の公報を賞賛する神殿からの新しい手紙の束を持ってゴルゴスがやってくると、タウーバッドは先ほど書いたメモと羽ペンを渡した。メモには、「この羽ペンを魔術師ギルドに持って行って、売ってしまいなさい。魔法をかけられていない普通の羽ペンを買ってきなさい」と書かれていた。 ゴルゴスにはそのメモはなんとも不可解に思われたが、メモの通りに実行した。彼は数時間後に戻ってきた。 「あの羽ペンに対して返金することはできないそうです」とゴルゴスは言った。「それに彼らは羽ペンには魔法が封じられていないと言いました。僕が『何を言ってるんですか。あなた方がここで羽ペンに妖精族の魂石の付呪を施したんじゃないですか。』と言うと、彼らは『それはそうですが、今、その羽ペンには魂は宿っていません。何かしたせいで失われてしまったのではないですか。』と言うのです」 ゴルゴスは主人をみつめた。タウーバッドは何も言えなかった。もちろん、いつにも増して何も言えないように見えたという意味である。 「とにかく、言われた通り、前のペンは捨てて新しい羽ペンを買ってきました」 タウーバッドは、その新しい羽ペンを調べてみた。前の羽ペンの羽は鳩のような灰色だったが、新しいペンの羽は真っ白であった。彼の手によく馴染んだ。安堵の溜息を漏らし、手を振って少年を下がらせた。彼は公報を書かねばならなかった。今度は魔法ではなく、己の才能だけに頼るのだ。 二日かかって、なんとか予定通りに仕事を終えた。実に平凡ではあったが、まさしく彼の作品である。ページに目を走らせて少しばかりのミスを見つけた時には、不思議と安心した。公報にちょっとしたミスがあるのは昔からだからだ。「実際のところ……」彼は幸福そうに考え込んだ。「この文章には、まだ見ぬミスが埋もれているのだろう」 平凡な字体で最後の一巻きを書き終えたところに、神殿からの数通の手紙を持ってゴルゴスが来た。タウーバッドはそれら全てに素早く目を通していたが、そのうちの1通が彼の注意をひいた。手紙の蝋封には「妖精族」という文字が見て取れた。彼は戸惑いを覚えながらその封を切った。 そこには完ぺきに美しい筆記体で「あなたは自殺せねばなりません」と書いてあった。 タウーバッドは公報に突然動きがあったのを見て手紙を床に落とした。妖精族の文字は手紙から跳ね出し、巻物に洪水のように押し寄せると、タウーバッドのみすぼらしい文章を最上の美しい作品に変換していった。タウーバッドはもはや、カエルにも似た奇妙な自分の声のことを気にしなかった。彼は長く長く叫び続けた。そして酒を飲んだ。とにかく飲んだ。 金曜の早朝、神殿秘書ヴァンダーシルからの手紙が届けられていた。しかし、午前中の半ばまで、それを読む勇気はなかった。そこには「おはようございます。今まさに公報を納入しようと思っているところです。いつもなら木曜の夜までに仕上げて頂いておりますが…… 興味深いですね。何か特別なことを計画していらっしゃるのでしょうか?──ヴァンダーシル」と書かれていた。 タウーバッドは「ヴァンダーシル、申し訳ない。体調がすぐれないので今度の日曜の公報は書けそうにないのです」と返事を書き、風呂に逃げ込む前に、ゴルゴスに渡した。その1時間後に風呂から戻ると、ちょうど笑顔のゴルゴスも神殿から帰ってきていた。 「ヴァンダーシルさんも大司教も大喜びですよ」彼は言った。「今までの内でも最高の作品だと言っていました」 タウーバッドはわけが分からずにゴルゴスを見つめた。そして公報がなくなっているのに気づいた。怒りに震えながらも、指をインク壷に浸して、「私が渡したメモには何と書いてあった?」と書き殴った。 ゴルゴスは笑顔を引っ込め「覚えてないのですか?」と聞いた。彼は、近頃主人が酒を飲みすぎていることを知っていた。「正確には覚えていませんが確かこんな内容でした。『ヴァンダーシルさん、今回の公報です。遅れてすみません。最近、体調がすぐれないのです。──タウーバッド』また、「そこだ」とおっしゃったので、公報も届けて欲しいのだと思いそうしました。先ほど言いましたが、神殿の方々はとても喜んでいました。今週の日曜には、三倍の手紙が届きますよ」 タウーバッドは笑顔でうなずくと、手を振ってゴルゴスを部屋から下がらせた。ゴルゴスは神殿に戻って行き、彼の主人は机に向かって新しい羊皮紙を1枚取り出した。 彼は羽ペンで「妖精族よ、お前の望みは一体何だ?」と書いた。 その文字は「さようなら。自分の人生に、すっかり嫌気が差してしまったのです。手首を切りました」に変わった。 タウーバッドは「私はおかしくなってしまったのか?」と書いた。 その文字は「さようなら。私は毒を飲みました。人生が嫌になった」に変わった。 「どうして、私にこんなことをさせるのだ?」 「私、タウーバッド・フルジクは、忘恩の念と共には生きていけません。そのため、こうして首に縄をかけることにするのです」 タウーバッドは新しい羊皮紙を手に取ると、指をインク壷に浸けて公報を書き直し始めた。彼のオリジナルの原稿は、妖精族が変えてしまう前には平凡で欠点のあるものだったのに対し、新しく書いたこの公報は殴り書きであった。「i」の点は打たれておらず、「g」は「y」のように見え、文章は余白にまで飛び出して至るところで蛇のようにトグロを巻いていた。インクは1枚目から2枚目まで染みている。筆記帳からページを破り取ろうとして、3枚目が半分になってしまいそうな長い裂け目をこしらえてしまった。そうした出来上がったものは、何かを感情に訴えかけてきた。少なくとも、そのように彼は願っていた。それから、その公報とは別に「私が届けさせた「たわごと」の代わりに、この公報を使って欲しい」という簡単なメモを書いた。 ゴルゴスが新しい手紙を持って帰ってくると、タウーバッドはその公報とメモの入った封筒を彼に手渡した。届けられた手紙はどれも同じようなものだったが、治癒師テレミヒルのものだけ違っていた。「至急、お越しください。あなたの病状に酷似したクリムゾンの疫病の変異型についてブラック・マーシュから報告がありました。もう一度診察をしたいのです。確かなことはまだ言えませんが、しかし、どんな選択肢がありうるか、確認したいのです」 そのショックから立ち直るのには、その日の残りの時間と15ドラムの強いみつばち酒が必要だった。二日酔いから立ち直るのには翌朝の大部分を費やした。タウーバッドはそれから、ヴァンダーシルに羽ペンを使って手紙を書き始めた。「書き直したほうの公報を、どう思われましたか?」妖精族の手にかかるとそれは「私は火中に飛び込もうと思います。才能は枯渇してしまった」になってしまった。 タウーバッドはその手紙を指にインクを付けて書き直した。ゴルゴスが現れて、一枚の手紙を差し出した。それはヴァンダーシルからのものだった。 そこには「あなたは神々しい霊感だけでなく素晴らしいユーモア感覚の持ち主でもあるのですね。本当の公報の代わりに、あなたから送られた落書きを貼り出している場面を思い浮かべてみて下さい。大司教様は、たいへんに笑っていらっしゃいました。あなたの来週の作品を待ち切れません。──愛情をこめて、ヴァンダーシル」 その1週間後の葬式には、タウーバッド・フルジクにはとても信じられなかったであろうほどたくさんの友人と崇拝者が参列することになった。もちろん棺は閉められねばならなかったが、まるで芸術家自身であるかのように、そのオーク材の棺の滑らかな表面を撫でようとする参列者があとを絶たなかった。大司教が葬儀を執り行い、普段よりは丁寧な弔辞を読み上げた。タウーバッドの古き仇敵にしてヴァンダーシルの前の秘書であるアルフィアもクラウドレストから訪れて、泣き叫びながら、誰彼構わずに、タウーバッドの示唆が自分の進むべき道を変えたのだと訴えた。アルフィアは、羽ペンを自分に遺すというタウーバッドの遺言を聞いて号泣した。ヴァンダーシルは、そのハンサムで素敵な1人の男性、テレミヒルを見つけるまで、ひどく悲しんでいた。 「まったくもって信じられません。彼が亡くなるだなんて。もう会うことも話すことも出来ないだなんて」とヴァンダーシルは言った。「亡骸は見ましたし、まだ燃やされてはいなかったですけど、彼が本当にタウーバッドさんであるかどうかは私にはわかりません」 「何かの間違いであると言いたいところですが、彼本人であることを裏付ける多くの医学的証拠がありますから」とテレミヒルは言った。「いくつかこの目で確認しました。実を言うと、彼は私の患者でした」 「本当ですか?」ヴァンダーシルが尋ねた。「一体なんの病気で?」 「何年も前から、声を奪われてしまうクリムゾンの疫病を患っていました。でも、完全な治療法が見出されたのです。実は、彼が自殺した当日にも、そのことを伝える手紙を出しておいたところです」 「あなたが、あの治癒師ですか?」ヴァンダーシルが声を上げた。「彼の斬新で素朴なデザインの公報についての手紙をゴルゴスに渡す時に聞いたのですが、ちょうど、あなたの手紙を届けたところだと言っていましたよ。その公報というのが、驚くべき一品でした。こんなことを彼にはとても言えませんでしたが、最初は彼が流行おくれのスタイルの中で立ち往生してしまったのかと疑ったものです。しかし、それこそ彼が燦然と輝く栄光のかなたへと旅立つ前に、天才の最後を成し遂げたという証明なのです。何の比喩でもありません。まったくの文字通りです」 ヴァンダーシルは治癒師にタウーバッドの遺作を見せた。テレミヒルは、そのオーリーエル神の権能と威厳を称える、ほとんど判読できない程に熱狂的な数枚の公報を見て、ヴァンダーシルの意見に賛成した。 「さっぱり分からなくなってしまいました」とヴォングルダクが言った。 「どの部分についてだね?」と偉大な賢者は尋ねた。「この物語は非常に筋が通っていると思うのだが」 「どんな公報も妖精族は素晴らしい作品に仕立て上げました。しかし、タウーバッドの最後の公報だけは彼自身が書いたはずです」と思慮深そうにタクシムは言った。「でも、どうして彼はヴァンダーシルと治癒師からの手紙の内容を読み違えてしまったのですか? その手紙の文面も、妖精族が変えてしまったのでしょうか?」 「恐らくはそうだな」賢者は笑みを浮かべた。 「あるいは、妖精族が、タウーバッドの文章を読み取る力を変えてしまったのでしょうか?」と、ヴォングルダクが尋ねた。「つまり、妖精族が彼をおかしくしてしまったのでしょうか?」 「それも大いにありうることだ」と、賢者は言った。 「そうなると、妖精族はシェオゴラスの従僕だということになりませんか」と、ヴォングルダクは言った。「しかし、彼はクラヴィカス・ヴァイルの従僕であると、先生はおっしゃいました。いたずらと乱心と、どちらを司るデイドラなのでしょうか?」 「意思が妖精族によって確かにねじまげられたのです」と、タクシムは言った。「それがまさに呪いを永遠のものにするクラヴィカス・ヴァイルの従僕のやり方です」 「この書記と呪われた羽ペンの物語の結末に関しては、君たちの望むようにしておけばよい」と偉大な賢者は、微笑みながら言った。 小説・物語 茶2
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/60.html
アルゴニアン報告 このシリーズをまとめ読みするアルゴニアン報告 第1巻 アルゴニアン報告 第2巻 アルゴニアン報告 第3巻 アルゴニアン報告 第4巻 狼の女王 このシリーズをまとめ読みする狼の女王 第1巻 狼の女王 第2巻 狼の女王 第3巻 狼の女王 第4巻 狼の女王 第5巻 狼の女王 第6巻 狼の女王 第7巻 狼の女王 第8巻 オッタス婦人の案内書 このシリーズをまとめ読みするアンヴィル案内書 コロール案内書 シェイディンハル案内書 スキングラード案内書 帝都案内書 ブラヴィル案内書 ブルーマ案内書 レヤウィン案内書 火中に舞う このシリーズをまとめ読みする火中に舞う 第1章 火中に舞う 第2章 火中に舞う 第3章 火中に舞う 第4章 火中に舞う 第5章 火中に舞う 第6章 火中に舞う 第7章 狂気の十六の協約SI このシリーズをまとめ読みする狂気の十六の協約 第六巻 狂気の十六の協約 第九巻 狂気の十六の協約 第十二巻 黒い矢 このシリーズをまとめ読みする黒い矢 第1巻 黒い矢 第2巻 タララ王女の謎 このシリーズをまとめ読みするタララ王女の謎 第1巻 タララ王女の謎 第2巻 タララ王女の謎 第3巻 タララ王女の謎 第4巻 タララ王女の謎 第5巻 帝都の略歴 このシリーズをまとめ読みする帝都の略歴 第1巻 帝都の略歴 第2巻 帝都の略歴 第3巻 帝都の略歴 第4巻 ドゥーマー太古の物語 このシリーズをまとめ読みするザレクの身代金 (ドゥーマー太古の物語 第1部) 種たるもの (ドゥーマー太古の物語 第2部) 狙いどころ指南書 (ドゥーマー太古の物語 第3部) キマルヴァミディウム (ドゥーマー太古の物語 第4部) ドゥーマー太古の物語 第5部 ドゥーマー太古の物語 第10部 アズラと箱 (ドゥーマー太古の物語 第11部) バレンジア女王伝 このシリーズをまとめ読みするバレンジア女王伝 第1巻 バレンジア女王伝 第2巻 バレンジア女王伝 第3巻 パルラ このシリーズをまとめ読みするパルラ 第1巻 パルラ 第2巻 評論・深遠の暁 このシリーズをまとめ読みする評論・深遠の暁 第1巻 評論・深遠の暁 第2巻 評論・深遠の暁 第3巻 評論・深遠の暁 第4巻 ペリナルの歌KotN このシリーズをまとめ読みするペリナルの歌 第1巻 ペリナルの歌 第2巻 ペリナルの歌 第3巻 ペリナルの歌 第4巻 ペリナルの歌 第5巻 ペリナルの歌 第6巻 ペリナルの歌 第7巻 ペリナルの歌 第8巻 本物のバレンジア このシリーズをまとめ読みする?本物のバレンジア 第1巻 本物のバレンジア 第2巻 本物のバレンジア 第3巻 本物のバレンジア 第4巻? 本物のバレンジア 第5巻? 妖精族 このシリーズをまとめ読みする妖精族 第1巻 妖精族 第2巻 妖精族 第3巻 レヴェン四部作 このシリーズをまとめ読みする物乞い 盗賊 戦士 王者 2920 第一紀 最後の年 このシリーズをまとめ読みする2920 暁星の月(1巻) 2920 薄明の月(2巻) 2920 蒔種の月(3巻) 2920 恵雨の月(4巻) 2920 栽培の月(5巻) 2920 真央の月(6巻) 2920 南中の月(7巻) 2920 収穫の月(8巻) 2920 薪木の月(9巻) 2920 降霜の月(10巻) 2920 黄昏の月(11巻) 2920 星霜の月(12巻)
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/107.html
タムリエルの神々と崇拝についての概要 ブラザー・ヘッチフェルド 著 編者注: ブラザー・ヘッチフェルドは帝都大学研究序説部の準代書人である。 神々とは、世界の事象への関心を示すことによって評価されるものだ。ありふれた事柄に神が積極的に関わるという基本理念があるが、疫病や飢饉に対する神々のあからさまな無関心ぶりを鑑みることでその危うさに気づかされよう。 伝説的偉業への介入から日常生活における実体化まで、タムリエルの神の活動になんらかのパターンが認められたことはない。いろいろな意味において、神の関心は衆生界での毎日の試練とまるで関係のないところにあるのではないか。あるいは、そうしたことに関心がないだけなのかもしれない。が、例外はもちろんある。 歴史的な文献や伝説の多くが、絶望の時代に神、あるいは神々の直接介入があったことを指摘している。たいていの英雄譚では、神のため、神の神殿のために働き、戦った勇者に授けられた神の祝福について語られている。この世で知られている強力な秘宝のいくつかはもともとはこうした褒美として神から与えられたものだ。徳のある僧侶なら、望みが失われたときは神殿で神に呼びかけて祝福や援助を求めることができる、という報告もある。こうした神との接触や与えられる祝福が実際にどのようなものであるのか、それについては推測するより他はない。というのも、神殿はこうした神との交流は聖なるものであるとし、秘密にしておくからである。これらの接触が事実であるなら、神が俗世のことを気にかけていると信じているものにとっては心強いかぎりだろう。が、多くの状況において、まったく同じ神々が、苦痛や死の瀬戸際にあるものたちを前にしても手をこまねいて見ていることがあるのだ。まるで、手を下す必要などないと言わんばかりに。つまるところ、神のもちいる理屈や論理は人間の理解のほとんど及ばないところにあるのではないかという結論が導かれる。 すべての神や女神に共通するはっきりとした特徴のひとつが、崇拝や奉仕への興味であろう。神聖なる探求としての奉仕は、神々の気を引く数ある行為のうちのひとつでしかない。各神殿の規律や義務に従うことは日々の暮らしにおける奉仕の形であり、神々を満足させると考えられている。神殿で執り行われる儀式もまた神々の気を引くにはもってこいだろう。どういう儀式にすべきかは対象となる神々にとって異なる。結果がはっきりと目に見えるとは限らないが、犠牲や献納もまた神々の関心をこちらに向けさせるのに欠かせないとされる。 毎日の神殿生活における神々の直接介入が報告される一方で、平凡な暮らしにおける神々の存在が実際のところどういったものであるのかについては、おおいに議論の余地があろう。ウッドエルフのことわざに「こちらの奇跡はあちらの偶然」というものがある。毎日の暮らしに積極的に介入するとされる神もいるが、他方では、移ろいゆく出来事への無関心ぶりで知られる神もいるわけだ。 一説によると、賞賛や犠牲や奉仕による崇拝などから神々は実際に力を得ているという。神々の社会における総合的な地位は、その崇拝者の数によって決まるという論理すら成り立つかもしれない。これはあくまでも私的な推論でしかないが、小規模な宗教施設と比較して、大神殿では神の祝福や支援がさしたる苦労もなくあっさりと手に入るという明白な事実がその根拠となっている。 別の報告書によるとこの世には、人間の行動や奉仕をみずからの力に変えられる能力を持つ、まるで神のような霊魂が存在するという。こうした霊魂の真の姿を解明することで、神と神の崇拝者との絆についてのいっそう深い理解が得られることだろう。 こうした霊魂が存在することで、彼らは神や女神の領域までみずからを高められさえするのではないかという推測が導き出される。帝都神学校のモツスオは、こうした霊魂は、時の流れとともに信者のほとんどすべてを失った神や女神のなれの果てであり、神格の本源ともいえる最古の姿に退行したものではないかという説をとなえた。「古代の流儀」を実践するものたちは、この世に神はおらず、上級と下級の霊魂のみが存在すると口にする。ひょっとすると、これらの説はどれも真実であるのかもしれない。 神話・宗教 赤1
https://w.atwiki.jp/oblivionlibrary/pages/217.html
後衛の心得 テナス・ムーアル 著 城は持ちこたえるだろう。どれほどの武力を持ってしても、カスカベル邸の壁が揺らぐことは決してないはずだ。しかしそれはメネグールにとって小さな慰めでしかなかった。空腹だった。実際、ここまで空腹になったのは初めてだった。要塞の中庭にある井戸は、第四紀までも持ちこたえられるほどの水を供給してくれてはいるが、それでも何か食べるものが必要だということを忘れる暇を胃袋は与えてくれなかった。 荷車一杯の補給品はメネグールを欺いた。彼を雇っていたソリチュードの王の軍隊がカスカベル邸を離れ、その撤退を援護する後衛として彼が銃眼に配置された時、数ヶ月は持ちこたえられるだけの食料を積んだ荷車が彼のために残された。食料庫であるはずの荷車を実際に調べ、そこに何も食べられるものが積まれていないことを知ったのは、軍が撤退した翌晩のことだった。どのトランクを開けてみても、軍がモロウウィンドに侵入した際に奪ったネッチ皮の鎧がぎっしり詰まっていた。どうやらノルドの同盟軍は、わずかに不透明なこの物体がゼリーに覆われた乾パンだと考えたようだ。隊商を襲われて荷車を奪われたダンマーたちがこのことを知っていれば、死ぬまで笑い続けただろう。 傭兵仲間で親類でもあるアエリンも、これを知ったらおもしろがるだろうとメネグールは思った。軽装鎧に関してはちょっとした専門家である彼女は、ネッチ皮についてもその道の権威ぶりを発揮して語っていた。しかしその際に彼女は、窮状に陥った場合でもこの皮は他の皮のように食べることができないという点を強調していた。皮肉なことの成り行きを彼女も一緒に楽しめないなんて残念だなと、とりとめのないことをメネグールは考えていた。お尋ね者の逃亡者になるよりは、自由の身としてスカイリムの寒さの中にいる方がましだと考えて、王の軍隊が去るより先に彼女はモロウウィンドに戻っていた。 カスカベル邸に護衛として配置されてから16日目までに、中庭に生えていた草を1本残らず食べ尽くした。城の中も、くまなく食いつぶした。積み上げたワラの中にあった腐ったジャガイモは胃袋に収まった。伯爵夫人の寝室で埃をかぶっていた花束も消費した。城の壁を住み家とする最もずる賢いものたち以外、ほぼすべてのネズミと虫を捕まえてむさぼるように食べた。とても喉を通りそうにない法律書ばかりに思われた当主の部屋からも、パン屑がわずかに出てきた。石に生えている苔までもこそげ取って食べた。味方の軍が戻ってきて要塞を包囲している敵軍を打ち破ってくれるよりも先に、メネグールが餓死してしまうであろうことはもはや確実だった。 「最悪なのは」と、城に一人で取り残された翌日にはもう独り言が癖になっていたメネグールは言った。「命の綱がすぐ目の前にあるということだ」 城の壁のすぐ向こうには、黄金色の実をつけるリンゴの木の広大な林が延々と続いていた。日の光を浴びて輝くその果実はなんとも誘惑的だったし、残酷な風が吹いては甘い香りをカスカベル邸の中にまで運び、彼をひどく苦しめていた。 多くのボズマーと同じようにメネグールも射手だった。長距離あるいは中距離の戦闘であればお手のものだったが、接近戦、つまりもしも勇気を振り絞って城を飛び出して敵の野営地へと足を踏み入れたなら、長くは持たないことは自分でも分かっていた。いずれそうせざるを得ないことは知っていたが、その日が来るのが恐ろしくて仕方がなかった。だが今、すでにその時だった。 メネグールは生まれて初めてネッチ皮の鎧を身につけた。肌に当たるその皮の感触は粉っぽく、ほとんどベルベットのような質感だった。またそこには、かろうじて感じ取れる程度の脈動もあった。自らの毒で死んでから何ヶ月も経てまだなお、ネッチの有毒な皮膚にある刺細胞の断片が、うずくような感じがした。その連帯感に力がみなぎった。ネッチ皮の鎧をまとって身を守る方法を説明する際、アエリンはその感覚についても完ぺきに表現していた。 夜の闇に紛れてメネグールは城の裏門からこっそりと外に出て、かなり面倒な門の錠前に鍵をかけた。できる限り音を立てることなく林へと急いだが、木の後ろにいた通りがかりの見張りが、彼を見とがめた。あわてることなくメネグールはアエリンの指示を思い出し、相手が攻撃を仕掛けてから身体を動かした。見張りの剣は鎧の上を滑って勢いよく左に逸れ、若者はバランスを崩した。メネグールはコツを理解していた。攻撃される心構えをした上で相手の一撃に合わせて動けば、膜質の鎧が損傷をかわしてくれるのだ。 敵の勢いを相手自身にむけさせるのよ、と、アエリンは言ったものだ。 さらに何度か林の中での接近遭遇があったが、斧の一振りもソードの一突きも見事に逸らされることになった。持てるだけのリンゴを手にしたメネグールは再び攻撃をかわしながら城へと戻った。そして中に入って再び裏門に鍵をかけると、食べる喜びに身を浸したのである。 それから何週間も、彼は城を抜け出ては食料を集めることを繰り返した。見張りたちは、彼が不意に現れるのを予期して待ち受けるようになったが、メネグールは行動時間を常に変えていたし、攻撃された時にはまず相手の一撃を待ってから受け止め、そして逸らすことを忘れなかった。そんな風にして、彼はカスカベル邸での孤独な番人生活を生き抜いたのであった。 それから4ヶ月後、いつものようにリンゴを取ってこようとメネグールが準備していた時、表門のほうから大きなわめき声が聞こえてきた。安全な距離があることを確かめてからその集団をよくよく観察してみると、ソリチュードの王と、同盟者であるカスカベルの伯爵、そしてその両者の敵であるファーランの王の、それぞれの盾が並んで見えたのである。どうやら休戦協定が結ばれたようだ。 メネグールが門を開けると、連合軍となった軍隊が中庭一杯に入ってきた。ファーランの騎士たちの多くは、彼らが「林の影」と呼ぶようになっていた男と握手したがり、男の防御術を称え、彼を殺そうとしたことについて潔く詫びた。もちろん、彼らはただ任務に忠実であろうとしただけなのだが。 「どの枝にもリンゴの実がまったく残っておらんではないか」と、ソリチュードの王が言った。 「端のほうを取り尽くしてから奥にも足を伸ばしたんです」と、メネグールが説明した。「少しは肉も摂取したく思い、ネズミを壁からおびき出すためのリンゴも多めに持ってきました」 「休戦協定を細かいところまで詰めるのに何ヶ月もかかってしまった」と、王様は言った。「まったく疲れたわい。いずれにしてもこの城は再び伯爵の手に委ねられるわけだが、まだ少し解決すべき問題が残っている。おまえは傭兵の身分だから、必要な経費は自分持ちということになっている。わしの家来であれば事情は違うかもしれないが、実はどうしても従わなければならない古くからの規則があるんじゃ」 メネグールは王様が繰り出す一撃を待ち受けた。 「問題は……」王様は話を続けた。「ここにいる間に、おまえが伯爵の作物をかなり取ってしまったということだ。どれほど良心的に計算してみたとしても、おまえは傭兵としての自分の賃金と同じか、おそらくそれ以上の量を食べてしまった。むろん、厄介な状況の中で城を守り抜いたおまえに罰を与えたいとは思わないが、昔からの決まり事を守ることも大切だとは思わないか?」 「もちろんです」攻撃を受け止めるようにメネグールが答えた。 「その言葉を聞いて安心した」と王様が言った。「我々の見積もりでは、カスカベルの伯爵に対しておまえは37帝都ゴールドの借りがある」 「それでしたら喜んで払いますよ。秋の収穫の後で利子を付けて、私自身に」と、メネグールが言った。「お考えになているよりずっと多くの実が枝には残っていますから」 ソリチュードの王、ファーランの王、そしてカスカベルの伯爵が、そろってボズマーの顔をじっと見つめた。 「どれほど厳しいものでも、古くからの規則には従わなければならないということで、私たちは同意しました。また、あなた方が休戦協定について議論している間、膨大な量の本を読むだけの時間が私にはありました。ユリエル四世が統治していた第三紀246年に、まだ混沌としていたスカイリムにおける所有権にまつわるいくつかの問題を解決しようとした帝都の評議会は、君主に仕えていない者が城を3ヶ月よりも長く占有した場合、その者が誰であっても、当該不動産の所有権および称号権が認められると定めたのです。言うまでもなく、これは良い法です。不在を続ける在外地主を認めないことを目的としているのですから」今ではすっかりその感覚が染みついている身かわしの術が効果をもたらしているのを感じ、微笑みながらメネグールが言った。「規則に従い、私がカスカベルの伯爵となります」 後衛の息子は今でもカスカベル伯爵の称号権を持っている。また、帝都でも最高品質とされるおいしいリンゴも育てている。 物語(歴史小説) 茶3